プレス金型による加工方法
プレス金型を使用した加工方法には、大きく分けて「抜き」「曲げ」「円筒絞り」の3つがあります。こちらでは、それぞれの加工方法の基本をご紹介します。
「抜き」の基本
せん断形状
平板に「せん断加工」を行った場合、切断面は上記のように4層構造となり、平滑にはなりません。
金型と「せん断形状」の関係
- パンチ(上型)が下降して材料に接触し、材料に食い込むと、パンチとダイの刃面側に「ダレ」が形成されます。
- さらにパンチが下降することで「せん断荷重」が増加し、材料にクラックが発生します。
- パンチ側のクラックとダイ側のクラックがつながると、「せん断」完了です。
パンチ側のクラックとダイ側のクラックをつなげるため、パンチとダイには適正な隙間(クリアランス)が必要です。
クリアランス
抜き加工においては適切なクリアランスが必要であり、クリアランスが少なくても多くても不具合が発生します。
適正クリアランス値 | |
適正なクリアランスはせん断面が板厚の3分の1~2分の1の割合で、全体的に平均しています。 | |
クリアランスの過大 | |
クリアランスが多すぎると「ダレ」と「バリ」が大きくなってしまいます。また、「抜きゾリ」が大きくなることで製品精度の安定感が失われます。 | |
クリアランスの過小 | |
クリアランスが少ない場合は、パンチとダイの刃先から発生するクラックが一致せず「2次せん断面」が発生します。 |
- 適正クリアランス値
- クリアランスは加工素材の材質や板厚により設定値が異なります。値は以下の方法で求めましょう。
- 片側クリアランス=%X加工材板厚
抜き圧力計算
打抜きに必要な圧力は、下記の計算式によって求めることができます。
P=L×t×S×k
クリアランスは加工素材の材質や板厚により設定値が異なります。値は以下の方法で求めましょう。
P:抜き圧力(kg)
L:抜く形状の全周長(mm)
t:加工材の板厚(mm)
s:加工材のせん断抵抗(kgf/mm 2)≒(引張り強さ(MPa・N/mm 2)×80%)
k:安全率=係数(1.1~1.2)
材質 | せん断抵抗(kgf/mm2) | 引張り強さ(N/mm2) |
---|---|---|
SPC系 | 26~35 | 255~344 |
SPH系 | 44~100 | 432~980 |
SUS430 | 45 | 440 |
SUS304 | 53 | 520 |
真鍮 | 30 | 294 |
銅 | 22 | 216 |
アルミ | 20 | 196 |
せん断変形過程の応力
抜き加工により、材料のソリ(平面度変化)が発生します。ソリが発生すると、製品の精度が不安定になりやすくなってしまいます。
- クリアランスが大きくなる↓
- 曲げモーメントが大きくなる↓
- 張力が大きくなる↓
- せん断後、張力が開放される↓
- 製品が縮む傾向にある
抜きによる穴および外形の変形
抜きによって材料が板厚方向に移動する力が発生するため、加工した部分が変形してしまいます。
変形は、厚板になるほど大きくなります。
「曲げ」の基本
曲げ断面形状
板厚中立軸に対して、内側には圧縮応力が、外側には引張応力が作用します。
そのため、中立軸外側は引張応力の作用で板厚が減少します。
また、中立軸は若干内側に移動します。
曲げ展開寸法の計算方法
曲げ展開寸法は中立軸の長さを求めることにより得られます。概算を求める場合は、下記の計算式を使用します。
L=A+B+(R+T×λ)×2π×θ/360
λ=中立軸移動率(%)※経験値を採用
L=展開寸法
A・B=曲げ応力のない部分の長さ
R=曲げ内側R(半径)
θ=曲げ角度
T=板厚
曲げ金型構造
U曲げ構造
「絞り曲げ」とも呼ばれる構造。曲げ型では一般的な曲げ加工では、ほとんどこの構造が採用されています。
主なパーツは曲げパンチ、ダイ、スプリングパットです。
V曲げ構造
一般的に「ヤゲン曲げ」と呼ばれており、簡易曲げに多く用いられています。
主なパーツは曲げパンチ・ダイで、製作費は「U曲げ」に比べて安価です。
曲げダイR
一般的に、曲げダイRの大きさは加工板厚の3倍程度となっています。
ダイR(小さい)
急激に曲がるため直角度が不安定になるほか、製品の曲げ側面にへこんだような横筋(ショックライン)が入ります。
また、曲げダイが焼きつきやすく、製品の曲げ側面に引っ掻き状の縦筋が入ってしまいます。
ダイR(大きい)
ダイRが過大で曲げ高さが低い場合、材料が板厚方向に逃げてしまいやすくなるため、曲がりにくくなります。
スプリングバック対策
U曲げ構造においては、スプリングバック対策を考慮したうえで金型を製作します。
曲げパンチの先端に出っ張りを設け、その部分を材料に食い込ませることによりスプリングバックを防止します。 | 前工程でクサビ形状を打ち次工程で曲げます。 曲げ位置、直角度が安定しやすくなります。 |
曲げによる問題点
最小曲げ高さ | 「U曲げ」構造において曲げダイRにブランク端がかかると、ダイRによってブランク材が横方向に逃げやすくなって、曲がりにくくなります。 |
高さの低い 曲げによる変形 |
曲げ高さが「最小曲げ高さ」より小さくなると変形しやすくなってしまいます。 |
曲げ根元の膨らみ | 曲げ加工によって曲げ幅方向に曲げ部が若干膨らみます。 |
曲げに接近した 穴の変形 |
曲げ工程前に加工された穴などの近くを曲げる場合、曲げによって引張られ、穴の寸法に変化が発生します。 |
曲げによる 底面のソリ |
曲げ加工において、圧縮応力と引張応力との反発でスプリングバックが発生し、曲げる方向と反対側にソリが発生します。 |
「円筒絞り」の基本
絞り加工とは
絞り加工は、板材(鋼板)から容器状に成形をすることができる加工方法です。
主に、自動車製品や機械製品など、多くの製造分野で利用されます。
円筒絞り加工
円筒絞り加工とは、板材(鋼板)を円筒の容器状に成形する金型加工を指します。
どんな金属でも、1回の加工で成形できる「絞り深さ」には限界があるため、製品形状によっては絞り工程を何度も行います。
絞り率
絞り直径(d)とブランク直径(D)との比率(d/D)を「絞り率」と言います。絞り率は、以下の計算式で求められます。
限界絞り率
製品を破断させることなく絞ることができる最小の絞り率を「限界絞り率」といいます。材質による限界絞り率は以下の通りです。
絞り鋼板 | 0.55~0.60 | 0.75~0.80 |
深絞り鋼板 | 0.48~0.55 | 0.75~0.80 |
ステンレス板 | 0.50~0.55 | 0.80~0.85 |
メッキ鋼板 | 0.58~0.65 | 0.85~ |
アルミニウム板 | 0.53~0.60 | 0.75~0.85 |
ジュラルミン板 | 0.55~0.60 | 0.85~0.90 |
黄銅板 | 0.50~0.55 | 0.75~0.80 |
銅板 | 0.50~0.55 | 0.75~ |
亜鉛板 | 0.65~ | 0.85~ |
LDR(Limiting Drawing Ratio)
1回の絞りで破断を起こさないで円筒を絞ることのできる最大のブランク直径を(Dmax)としたとき、(Dmax/d)を「限界絞り比」、あるいは「LDR(Limiting Drawing Ratio)」と言います。
LDRはブランク材の絞り性の指標とされています。
円筒絞りにおける応力
円筒絞りでは素材に対して上記のような応力(ひずみ)が発生します。
応力により、フランジ部はパンチの引張りによって形状が変化し、ダイ肩で曲げられて穴に絞り込まれていきます。
フランジ部には圧縮力が働いてひずみが発生するため、フランジ部の板厚が増加して、しわが出てきます。
このしわを押さえる力が弱いとしわが発生し、反対にしわを押さえる力が大き過ぎると絞り底面の破断につながります。
ブランク寸法の計算
円筒の絞り加工では、ブランクの表面積と製品の表面積はほぼ等しいと考えられます。
そのため、円筒形状の製品に用いるブランク寸法は次の式によって求められます。
D=ブランクの直径
d1=絞り製品の直径
d2=フランジの直径
r1=絞り底肩R
r2=絞り口肩R
パンチラジアスとダイラジアス
「パンチラジアス」とはパンチ肩の半径を指し、この大きさは絞り性を大きく左右する要因になります。
「ダイラジアス」はダイ肩の半径を指し、こちらもパンチラジアス同様、絞り加工性を大きく左右する要因になります。
それぞれ、以下の式によって大きさが求められます。
パンチラジアス | ダイラジアス |
t=板厚 rp=パンチラジアス |
t=板厚 rd=ダイラジアス |
クリアランスと加工力
クリアランス | 円筒の絞り加工において、パンチとダイのクリアランス(隙間)の大小は、絞り加工された製品の形状に関係します。 逆にクリアランスを大きくすると、絞り加工製品にしわやそりなどの不良が生じ、寸法精度が下がります。 |
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加工力 | 絞り加工力は、絞りパンチ力としわ押え力を加算して求めます。 | |
絞りパンチ力 | ||
しわ押え力 | ||
t=板厚 s=引張り強さ d1=絞り径 d0=ブランク直径 |